一般社団法人網走青年会議所
第71代理事長 長井 寿公
2022年度 理事長所信「新たな価値と人のつながりから、夢溢れる網走の創造」
【はじめに】
人々が夢を抱ける社会とはどんな社会なのか、夢を抱くだけなら容易いが、実現に向けては多くの困難が待ち受けています。
新型コロナウイルスの世界的流行、自然災害、AI技術の急激な進化などVUCAの時代とも言われる現代社会、確かなものなど無く先行きの見えない不安が人々の心に混迷をもたらし、夢が見つけにくい時代とも言い換えられるのではないでしょうか。
今から73年前、現在と同じように先行きの見えない不安が社会を覆っていた、戦後の傷跡がまちにも人々の心に残るGHQ占領期の混迷を極める日本、人々はその日を懸命に生き夢を抱く余裕など無い時代、「新日本の再建は我々青年の仕事である。」という志を掲げた若き青年達が集い、明るい豊かな社会を理念とした青年会議所運動は始まり、夢の実現に向け今日までその歩み続けています。
そんな青年会議所に私は誇りを持っています。16年前、当時東京から戻ってきたばかりの私は、故郷網走に対して漠然とした虚無感と共に、家業の漁業を継ぐうえで今のままではいけないという危機感はあるものの、なすすべもなく日々を過ごしていた時、自身の成長のため網走青年会議所に入会することを決意しました。入会当初は不安もありましたが厳しくも温かい先輩や、信頼のおける仲間との出会い、活動から得られる達成感は刺激的で、何の疑問もなく永遠にこの日常が続くと思っていました。しかし最も信頼していた同期との永遠の別れはある日突然やってきました。当たり前に続くと思っていた現実が音を立てて崩れ、思い出が走馬灯のように過り生前共に活動していた時に、だれよりも命を懸けて故郷網走のことを思い活動していたこと、関わる人全てに真剣に向き合い語りかけていたこと、しかしもう共に活動することはできない、私は遺志を継ぎ先輩が夢を抱いた網走の実現を、自身の使命とすることを誓いました。
そしてもう一つ、先輩が教えてくれたこと、この世に確かなものなど無いということ、地域に当たり前にあると思っていた網走青年会議所が、今存続の危機にある。社会の誰もが苦しい時代だからこそ、網走青年会議所の存在意義を示していかなくてはならない。今、苦しいなかでも歯を食いしばって活動している仲間と共に、勇気をもって邁進することをここにお約束します。
青年会議所の理念である「明るい豊かな社会の実現」の探求から行動に移し実現することこそ、我々青年の使命であると強く確信している。
【誇りをもち挑み続けるJAYCEEへ】
我々は昨年、第15期LOM中期ビジョンを策定いたしました。
青年会議所の特徴の一つに、「単年度制」があります。人も組織も年度ごとに変わり、その時その時の状況に合わせる柔軟性、多くの会員が役職や立場と言った経験を積める反面、継続的な取り組みが苦手と言われています。そこで網走青年会議所では、5年ごとに中期ビジョンを策定し社会や地域の現状分析から、目指すべき方向性を明示化し内外に向け発信することで、連続性ある運動を展開してまいりました。
1952年網走青年会議所の誕生から本年70年目を迎えます。目まぐるしい社会の変化に対応しながらも、創始の精神を忘れることなく脈々と受け継がれてきた運動を未来へと残すため、網走青年会議所は第15期LOM中期ビジョンで描く2026年の到達点を
「誰もが夢を抱き挑戦できる 網走の創造」
とし、その目標に向け運動を展開してまいります。
【クリエイティブな発想から組織力へ、総務運営に向けた挑戦】
組織を形成する総務運営と聞いて、「雑用係」「閑職」「決まったことだけやればよい」といったネガティブなイメージを持っている人も少なくないのではないでしょうか。しかしその本質をとらえることができれば、総務運営ほどクリエイティブ(創造的)で、組織力に直結するところは無いと言えるかもしれません。
青年会議所の運動を生み出すプロセスにおいて諸会議の運営は重要ですが、より一層生産性を高め運動を最大化するためには、柔軟な発想からアイディアを導くアプローチが大切です。
間もなく到来するウィズコロナ、アフターコロナの新しい社会となっても青年会議所の核ともいえる質の高い合意形成の場を維持し、会員へ発展と成長の機会を提供し続けるためには、青年会議所の総務運営においても組織的なつながりに重点を置いた基盤整備に加え、風通しの良い環境に必要な人と人との意思疎通の円滑化といった戦略的な組織力の創造に向け挑戦してまいります。
【価値創造プロデュース、広報ブランディングに向けた挑戦】
網走青年会議所で、過去様々な運動を発信する時広報は大変重要な役割を担ってきました。言い換えると広報を一方通行の発信となる宣伝として捉えるのではなく、組織の目標を達成するうえで公衆との良好な関係を築くため、情報の受発信を通して人々からの理解や信頼を生み出してきました。
また戦略的な広報を考えた時、網走青年会議所の価値といったブランディングを忘れてはいけません。人々から青年会議所がどのように思われているのか、我々の運動が人々から理解されるものになっているのかといった視点を常に持ち、誰に何をどう伝えるのかといった設定を明確化し価値を創造していかなければいけません。
網走青年会議所の広報と、ブランディングを確立することができれば、今まで以上に人々から愛される団体となり、そこから得られるメリットは無限大に広がります。我々は運動の最大化をもたらす広報ブランディングの確立に向け挑戦してまいります。
【戦略的イノベーションがもたらす、まちづくりに向けた挑戦】
世界中で猛威を振るった新型コロナウイルスは、社会経済に大きな打撃を与えた一方、ICTの利活用、テレワークといった働き方にも変化をもたらし、2021年にはデジタル庁が新設され国内でのデジタル社会実現に向けた、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の動きも今後更なる加速が期待されています。しかし地方に目を向けると未だ少子高齢化や人口減少といった課題があり、地域の持続可能な発展に影を落としています。
社会全体のデジタル化は都市部との格差を縮め、「ひと、もの、こと」が有機的につながることが可能となり、そこから生まれた新たな価値は、従来地方の課題とされてきたことを解決へと導く大きな可能性を秘めています。
我々、青年会議所には戦略的イノベーションを巻き起こすノウハウが蓄積されています。青年ならではの柔軟な発想と大胆な行動力に、次世代の技術を取り入れ、課題解決に向けた有機的連携を図ることで、新たな価値の創造から人々が地域に誇りや夢を抱ける持続可能な社会の実現に向け挑戦してまいります。
【誰もが夢を抱く社会へ、青少年育成に向けた挑戦】
夢を見つけにくいといわれる現代、少子高齢社会の到来、人間関係の希薄化といった問題は、自身の将来に夢を持つことができない若者を増やしています。教育分野では「生きる力」の育成としてキャリア教育が推進され、若者の社会的、職業的自立に向け教育現場で取り組まれている一方、子供たちを取り巻く環境に目を向けると、核家族化や共働き世帯の増加から家庭の養育力の低下や、地域における相互扶助といった助け合いの低下によって青少年の健全な育成に影をおとしています。
今、世の中では夢を持つことの大切さが改めて見直され、ここ網走においても自身や社会の将来に夢を抱き挑戦する人を育んでいく必要があります。そして次世代へと続く取り組みから、人と人とのつながりを生み、地域の課題解決へとつながる持続可能な地域社会の構築といった好循環が期待できます。
青年会議所は子育て世代ともいえる青年の集まりです。地域の宝ともいえる若者の健全な育成から、地域を豊かにする原動力を生み出し、夢の力で大人も子供もワクワクする未来創造に向け挑戦してまいります。
【つながりから始まる、ひとづくりに向けた挑戦】
競争社会とも言われる現代において、人は少なからず生きづらさを感じているのではないでしょうか。
国連の持続可能な開発ソリューションネットワークが、世界150か国以上を対象に調査している、世界幸福度ランキングによると2021年度の日本は56位と、先進諸国と比較すると未だ低い水準にあります。経済や社会保障も充実し、世界から見れば国内の治安もよく、健康寿命の長さは上位に入る日本が何故か。大きな理由として「人生の自由度」と「他者への寛容さ」が原因だと考えられています。加えて、昨今の新型コロナウイルスの影響による人間関係の希薄化は利己主義を蔓延させ、現代社会の生きづらさへと結びついていることからも、地域に主体的に関わるといった「つながり」のあり方が見直されています。
青年会議所が市民意識変革を運動の基軸とし、社会の大きな潮流を捉えたうえで地域課題に対し積極果敢に取り組む人財を育成するには、多様な価値観の中で人と人とが磨きあい、一人ひとりが楽しさや苦しさの中から新たな価値を見出し、認め合える環境が必要です。
個と公のつながり、個と組織のつながりからまちや組織へのエンゲージメントを高め、利他の精神が伴うJAYCEEとして、率先して行動する地域のリーダー育成へ向け挑戦してまいります。
【平和的な輿論喚起による、北方領土問題解決へ向けた挑戦】
1971年長崎での全国理事長会議にて北方領土返還促進決議が採択されてから、半世 紀に渡り網走青年会議所においても、北方領土問題解決へ向けた運動は展開され、人々の輿論喚起に努めてきました。未だ進展の見えない北方領土問題に対し、解決を見据えた両国による日ロ平和条約締結交渉を前進させるためには、人々への正しい歴史認識と問題の啓発に加え、次世代の若者へのアプローチから問題を風化させず解決へ向けた意志を広げていくことが肝要です。
また、領土問題を考えた時一方的な解釈からは解決の糸口は見出せないと考えます。相手国を深く知り、理解するといった民間外交ならではの交流から互いの信頼関係を構築することも大切であり、そういった一つ一つの取り組みの積み重ねが、やがて人と人の信頼から国と国の信頼へとつながり、北方領土問題解決の糸口となる平和的な輿論を生み出します。
我々は、この連綿と受け継がれてきた、市民意識変革運動を推進し、一日も早い北方領土問題解決へ向け挑戦してまいります。
【調和のとれた環境改善へとつながる、組織改革に向けた挑戦】
昨今の少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少を背景とした働き方改革が社会で推進され、内閣府が提唱する仕事と生活の調和(ワークライフバランス)憲章では、「今こそ、社会全体で仕事と生活の双方の調和の実現を希求していかなければならない。」とあります。本来各個人が自らの意志で人生をよくしようという自主的・自発的な考え方であったはずのワークライフバランスは、いつしか個人の成長や生産性を阻害する「やれない理由」として用いられることが多くなってきてはいないでしょうか。
青年会議所に目を向けると所属する会員は、当然皆仕事をしながら青年会議所活動を日々行っています。時には、家庭や自身の余暇を犠牲にする時もあるでしょう。しかし、現在の目まぐるしく変わる社会、新型コロナウイルスによる仕事への影響、共働き世帯の増加に伴う子育てや介護といった家庭の問題など、青年会議所活動をやりたくても出来ない、活動出来ないことで所属するメリットが感じられないなどのジレンマから、退会要因の一つとなっていることも事実です。
青年会議所活動で得られる能力の一つに、マネジメント(管理)能力があります。各事業の要とも言える調査研究、企画立案、実行、検証というプロセスや、様々な役職の経験から養われるのがマネジメント能力です。
また組織内で会員の限られた時間を効率的に使える環境を整え、共感が得られるシステムを確立できれば、生産性の向上による運動の最大化はもとより、仕事、家庭、青年会議所の調和実現につながると考えます。
組織の改善と会員の主体性が伴う「ワークライフJCマネジメント」確立に向け挑戦してまいります。
【青年会議所運動を最大化する、会員拡大に向けた挑戦】
その地域において青年会議所運動の最大化を図るにあたり欠かせないのは「ひと」、また人は人でしか磨かれないという言葉があるように、地域のリーダーを育成し続けるためには、多様な価値観のなかで個を育む環境が何よりも大切だと考えます。
そんな中、多くの青年会議所では会員減少に歯止めがきかず、地域からLOMが消滅しています。そしてここ網走においても対岸の火事ではなく、今まさに直面している喫緊の課題となっています。
青年会議所には、地域の青年に発展と成長の機会を提供するプラットフォームとしての役割があります。CD(Community Development)と言われる社会開発と、LD(Leadership Development)と言われる指導力開発、そして「自らに活力と知力を兼ね備え積極果敢に社会改革運動を実践できる人間」とした人間力開発をもって、地域をリードできる人財へと生まれ変わる機会を提供し続け、今日まで多くのリーダーを輩出し続けてきました。
このまちを共に考え創造できる仲間を一人でも増やすことこそが、まちの課題を解決へと導く運動の最大化をもたらし、活力溢れる組織に向け会員拡大に挑戦してまいります。
【創立70周年を迎えるにあたり、つなぐ思い】
1952年、全国28番目北海道内4番目の青年会議所として網走青年会議所は誕生しました。当時の網走は市制施行から5年目となる戦後復興へ向けて歩み出した時代でした。そんな激動の時代に、私達の先輩諸氏が地域の発展を願い志と情熱を持って、網走青年会議所を創立され、地域に根差した運動を展開されてきました。
今こうして、網走に歴史ある青年会議所があることも、当たり前に運動を展開できるのも全ては、いくつもの障壁に果敢に挑み、社会変化という時代の潮流を読み、今日に至るまでその理念を連綿と紡いでいただいた多くの先輩諸氏が居たことを、私達は忘れてはいけません。
本年、網走青年会議所は創立70周年を迎えるにあたり、先輩諸氏への感謝の気持ちと共に、その理念を未来永劫継承し、創始の精神を忘れることなく次代へと紡いでいく使命が私達にはあります。
そして、政策立案実行団体として網走の発展及び、市民意識変革から誰もが夢を抱き挑戦できる網走の創造へ向け、第15期LOM中期ビジョンを基軸とした運動を展開するため、会員一人ひとりが誇りをもち挑み続けるJAYCEEとしての気概を忘れることなく地域のリーダーとして邁進することをお約束します。
【他団体・本会・地区との連携】
歴史ある網走青年会議所が、今日に至るまで新たなアプローチに果敢に挑み地域に根差した運動を展開し続けてきたのは、毎年本会や、北海道地区協議会へ多くの出向者を輩出し、網走では味わえないスケールメリット、そして自己研鑽や、人との出会いといった貴重な経験から成長へとつなげ、その経験を活かしLOMや地域へフィードバックすることで高い水準での運動を展開し続けてきたからこそで、今後においても連携が必要だと考えます。
また、網走青年会議所の事業がきっかけとなって発足に至った、市内青年団体により構成される網走青年団体連合会では、全国的に見てもこれだけ多くの青年団体が連合会を構成するのは珍しく、網走の発展を願う青年同士団体の垣根を超えた研鑽や、交流から青年会議所会員へも良い影響を与えています。今後も、様々な事業への積極的な参加、参画こそがまちづくりの強固な地盤へとつながり網走を発展させてまいります。
そして、昨今多発する自然災害を受け2019年10月、網走市、社会福祉協議会、網走青年会議所三者による災害に関する協定を締結いたしました。これまでも青年会議所では、国内や道内で災害が発生した際は、組織のネットワークを活かした人的、物的支援活動を行いそのノウハウを蓄積してきました。網走市はもとより、多発する国内災害に対し日頃からの関係機関との連携による対話を重ねた意識の共有こそが、有事の際の迅速な行動へとつながり、地域の防災、減災へと努めてまいります。
【終わりに】
青年会議所の使命とは何なのか、その答えは私達が日々セレモニーで唱和しているJCI Missionに書かれています。「青年会議所は、青年が社会により良い変化をもたらすための発展と成長の機会を提供する」私達が活動する中で、人との出会い、新たな経験、学びなど人間を成長させる機会は多くあるものの、そこに気づき享受できている人は何人いるだろうか。在籍は40歳までという期限があるなか今を大切に生きているだろうか。そして何より私達青年が夢を語れているだろうか。
誰もが将来に対して不安を感じながら、その日を懸命に生き夢を抱く余裕など無い現代だからこそ、私達JAYCEEは将来を信じることをやめてはならないと思います。私達が夢を抱き理想を語らなければ、希望に満ち溢れた未来など訪れません。
「なんのためにうまれて なにをしていきるのか こたえられないなんて そんなのはいやだ。いまをいきることで あついこころもえる だから きみはいくんだほほえんで そうだ うれしいんだ いきるよろこび たとえ むねのきずがいたんでも」
絵本作家のやなせたかしさんが、自身の戦争体験を基に作詞されたものです。1988年初めてアニメのテレビ放送が始まった際は、この1番の歌詞が使用されていましたが、歌詞を聞いた子供が両親に「ぼくは、何のために生きているの」と尋ねるようになり、答えられない両親からテレビ局に苦情が寄せられ、現在の放送では2番の歌詞が使われるようになったというお話があります。
人が生きるうえで存在という価値を見出し、自身の使命を見つけ全うすることができれば必ずや「明るい豊かな社会」は実現し、夢溢れる未来が待っていることでしょう。
今こそ挑戦する時、新たな価値と人のつながりから、夢溢れる網走の創造に向けて。